万年筆を使うために

万年筆を気持ちよく使うために、万年筆のインクの種類と取扱い・充てん方法・お手入れについてご案内いたします。
万年筆のインクの種類と特徴
染料インクと顔料インク
万年筆のインクは大きく分けると「染料インク」と「顔料インク」2種類に分けることが出来ます。
「染料インク」は、現在最も一般的なインクです。
染料は水に溶ける性質を持っているので、扱いやすく、ペン内部でのトラブルも起きにくい初心者でも安心して使えるインクです。 発色が良くカラーも豊富な反面、滲みやすく、光によって退色しやすいという点があります。
「顔料インク」は、水に溶けない性質を持つ顔料を使用したインクです。
耐水性・耐光性に優れ、滲みが少ないため、比較的くっきりとした筆跡になります。 顔料は微細な粒子ですが、水に溶けず混ざっている状態のため、ペンの内部で目詰まりしやすい点があります。
「ブルー・ブラック」インク
万年筆がビジネスツールとして活躍していたころ、長期保存を求められる公文書などに用いられてきたのがブルー・ブラック・インクです。
ブルー・ブラック・インクは、青色の染料インクに特殊な方法で酸と鉄分を加えて作られた、耐水性・耐光性のあるインクです。 書いた直後は染料の青色ですが、染料が徐々に退色するとともにインクに含まれる鉄分が黒く酸化していき、最終的に黒色の鉄のみが紙面に固着し残ります。 筆跡の色が青から黒に変異する性質から、このインクを「ブルー・ブラック」インクと呼ぶようになったといわれています。 しかし酸性が強く、万年筆のペン先や紙に若干のダメージを与え得るため、現在の「ブルー・ブラック」と呼ばれるインクは色味から命名されているものがほとんどで、昔ながらの「ブルー・ブラック」を製造するメーカーは非常に少なくなっています。
万年筆インクの扱い方
・インク同士は混ぜない
同じメーカーのインクでも、インク同士は絶対に混ぜてはいけません。 インクに化学変化が起こり、思わぬトラブルになることがあります。 ※混色用のインクもございます。
・純正のインクを使いましょう
インクはメーカーそれぞれ、自社の万年筆の構造に合わせて調合してあります。 現在はカラフルなインクが数多く発売され、インクの色を楽しむ方も多い時代ですが、 初めの1本は万年筆の個性を知るために、なるべく純正のインクを使いましょう。
・インクを入れたら毎日使いましょう
万年筆用のインクの成分はほとんどが水なので、使わない間も少しずつ乾いていきます。 実は万年筆に最も多いトラブルはインク詰まりで、その原因の大半はペンに充填したインクが乾燥しペン内部に固着してしまうことです。 これを防ぐ最もよい方法は、インクを入れたらなるべく毎日使うことです。 インクを循環させてあげることで、スムーズな書き心地を良好に保つことができます。
・長期間使わないとき、インクの色を入れ替えるときはよく洗う
万年筆を長期間使わないとき、インクを別の色に入れ替えるときは、万年筆の内部をきれいにクリーニングしましょう。
万年筆のインクの入れ方=吸入方法
万年筆は、ご自身でインクをペンに充てんして使う筆記具です。
インクの入れ方、吸入方法は様々な仕様がありますが、ここでは代表的な「カートリッジ式」「コンバーター(両用)式」「回転吸入式」の
3つの方法をご紹介いたします。
カートリッジ式
カートリッジ式は、初めて使う方や、外出先で万年筆を使う事が多い方に扱いやすい充てん方法です。
1.万年筆用カートリッジインクを用意します。

2.万年筆のキャップを外し、首軸を回し軸から外します。


3.カートリッジインクを用意して、差し込む方向を間違わないようにペン先を上向きにし、首軸を滑らないようにしっかりと持ってまっすぐ差し込みます。
カートリッジを捻ったり斜めに差し込んだりすると故障の原因になりますので気を付けましょう。


4.外した首軸を胴軸にセットします。インクがペン先に到着するまで、しばらくペンを置いて待ちます。

注意点:カートリッジインクはメーカー純正のものを使いましょう。
ヨーロッパの万年筆は、同じ規格のカートリッジを採用しているメーカーが数多くありますが、
わずかに口径が異なることもあるため、純正品がある場合はなるべくそちらを使用しましょう。
コンバーター式
インクを楽しむ時代である現在、もっとも数多く採用されている充てん方法です。 また、コンバーター式はカートリッジも使う事が出来るので、「両用式」とも呼ばれています。
1.瓶入りの万年筆用インクを用意します。

2.万年筆のキャップを外し、首軸を回し軸から外します。

3.コンバーターを、首軸に差し込み(予めコンバーターがセットされた状態のペンもあります)、 コンバーターのお尻のつまみを反時計回りに自然と止まるところまで回し、ピストンを下げます。

4.瓶のふたを開けて、万年筆のペン先がインクの中に隠れるようしっかりと浸します。
ペン先がインク水面から浮いているとインクが上手く吸い上がらず、余分な空気が入ってしまいます。
ペン先を瓶の底にぶつけないよう気を付けて、しっかりとインクに浸しましょう。
※ここではペン先の様子がわかるよう、インクの代わりにコップに入れた水を用いています。

5.ペン先をインクに浸したまま、ゆっくりとコンバーターのつまみを回すと、インクが吸い上がってきます。
ピストンが上に上がりきるまで、つまみを回し、自然と止まるところまで引き上げます。


6.ペン先をインクから引き上げて、柔らかい布で首軸についたインクをしっかり拭きます。
ペン先は大きな雫を布に吸わせるようにやさしく拭います。それから軸にセットします。
コンバーター式はペン先からインクを吸い上げているので、インクが下りてくるのを待たずにすぐ書き出せます。
また、コンバーターはインクの残量も見やすく、様々なカラーを楽しめて、経済的でもあります。

回転吸入式
古くから採用されている瓶インクからのみ充てんする方法です。
カートリッジ式やコンバーター式と比べて2倍から3倍のインクが入るので、長時間の筆記に向いています。
1.瓶入りの万年筆用インクを用意します。

2.万年筆のキャップを外し、軸のお尻の部分(ノブ)を反時計回りに回転が自然に止まるところまで回します。
ぎゅっと強く回し過ぎないよう気を付けましょう。

3.瓶のふたを開けて、万年筆のペン先をインクの中に隠れるようしっかりと浸します。 その際、ペン先を瓶の底にぶつけないように気を付けましょう。

4.ノブを、時計回しに自然と止まるところまでゆっくりと回し、ノブが閉まったところでペンをインクからまっすぐ引き上げます。

5.ペンを引き上げた格好のまま、お尻のノブを反時計回りに少し回してインクを2-3滴落とし、そのままペン先をゆっくりと上に向けます。

6.お尻のノブを時計回りに回して閉めます。ノブの締めすぎに気を付けましょう。

7.首軸のインクをしっかり拭き取ったら、完了です。

万年筆のスペシャルケア
万年筆は、きちんとお手入れをすれば生涯使える筆記具です。 そして、特別な用意なく家庭で簡単にお手入れができる道具でもあります。 気持ちよく万年筆を使い続けるためのお手入れ方法をご紹介いたします。
基本は水洗い
万年筆用のインクのほとんどはお水で洗い落とすことができます。 コップにためた水道水の中でゆっくりと洗うことで、簡単にきれいにすることができます。
お手入れのタイミング
同じインクで毎日使っている場合は3-4か月に1回を目安に、 インクの色や他メーカーのインクに変える時や、2-3週間万年筆を休ませるときは必ず洗いましょう。
カートリッジ式の万年筆のお手入れ
1.万年筆の首軸を外し差し込んだカートリッジを抜いて捨てます。 使いかけのカートリッジを取っておいて、差し直す事はお勧め出来ません。もし残っていたら思い切って捨ててください。
2.コップに水道水をためて、その中に首軸ごとペン先をつけます。 しばらく経つとインクが溶け出してきます。インクで水が汚れたら、綺麗な水に交換し、それを数回繰り返します。 のんびりと、半日くらいかけてゆっくりやりましょう。
3.溶け出してくるインクが少なくなったら、ペン先を取り出します。 蛇口の水を弱く出して、ペン先にインクを入れる方向からお水をかけ流します。
4.ある程度流したら、さらしなどの柔らかく毛羽立ちのない布でぺン先や首軸をやさしく拭きます。また、ペン先を上に向けて、コンバーターの差し込み口に布を軽く当てて内部の水を出しましょう。インクの色がほとんど布に付着しなければ、きれいになった証拠です。
注意点:拭き取りの際はゴシゴシとせず、水分を布に吸い取らせるイメージでやさしく拭き取ってください。 万年筆のボディの素材によっては、浸け置きが向かなものもあります(漆やセルロイド、スターリングシルバーなど)。 万年筆を購入した時に付いてくる説明書をよく読んでから行いましょう。
コンバーター式の万年筆のお手入れ
1.首軸をコンバーターがセットされたまま取り外します。コンバーターにインクが残っていてもインク瓶には戻さないでください。
2.コップに水道水をため、インクを吸入する方法と同じように、 コップの水の中にペン先を浸けて水を吸い上げたり、出したりを繰り返します。 初めのうちはコップがすぐにインクで染まってしまいますが、水を交換しながら、水の出し入れを繰り返します。
3.コンバーターの中に入る水に色がつかなくなってきたら、洗浄終了間近です。
薄くインクの色が残っていて、完全に透明でなくても問題ありませんが、インクの色が出るまでなるべく水の出し入れをしましょう。
洗浄後はさらしなどの柔らかく毛羽立ちのない布で、ペン先や首軸、また、ペン先を上に向け、コンバーターの差し込み口を布にポンポンと軽く当てて内部の水を出しましょう。色の濃いインクが布に付着しなかったら、ペンがきれいになった証拠です。
吸入式万年筆のお手入れ
1.コップに水道水をため、インクを吸入する方法と同じように、ペン先をコップの水の中に浸けて水を吸い上げたり、出したりを繰り返します。
吸入式の場合、ペンの中のインクの色が見えないものも多いので、コップの水の色で判断します。
初めのうちはコップがすぐにインクで染まってしまいますので、何回か水を交換してゆっくり、繰り返し行いましょう。
水に色がつかなくなってきたら、洗浄完了です。
2.さらしなどの柔らかく毛羽立ちのない布でペン先の水分をやさしく拭き取りましょう。
注意点:吸入式は"お手入れ方法一体型"とも言える機能性の高い万年筆ですが、カートリッジ式やコンバーター式のように分解をして洗浄する事は出来ません。また、ボディごと水に浸けたりするのは軸の変形など故障の原因となりますのでお控えください。